知らないあなた
 


     8



とある取引先のご一家との会合があるのでその護衛役としての招聘?
森さんからの伝言? 中也が言ってきたって?
まあ、キミが言葉づらのまま受け取るのもしょうがない伝えられ方じゃあるけれど。
身内からの伝言であれ、
巧妙な罠とか仕掛けが内包されてるってこともあるのだ、気をつけなさい。

 「…お見合い、ですか?」
 「そう。それも当人の意思なんて関係ない代物だよ。」

箱入り暦=年齢っていう
おおよそ世間ずれしていないお嬢さんの
たっての意向とやらがまったくの嘘とは言わないが、
向こうにすれば
娘さんの我儘に振り回された甘い親なんてのは単なる偽装、
愚にもつかない不出来なお題目、建前的な言い訳でしかなく。
恐らくは以降もマフィアを顎で使うための人質くらいの感覚だろうし、
森さんにしたって、それが例えばキミじゃあなくの中也でも、
そちらの手の内に囲われたって痛くも痒くもないから
煮るなり焼くなりお好きにと、何の命綱も付けずに売り渡してしまう腹積もりに違いない。
キミ自身が何とか…マフィアには迷惑かけぬ範囲で言い訳を繰り出して回避したくとも、
例えば、指名手配犯だからという肩書だって、お断りの理由にはならないだろうね。
ならば屋敷から出さないという軟禁状態に持っていかれるだけの話。
キミほどの練達、しかも異能者を取り押さえるのは相当苦労しそうに思えるかもだが、
実は力づくでかからずとも、
キミの大事な人が困らぬかと えげつなくも回りくどいやりようでもってけば、
歯噛みしつつも唯々諾々従うしかなくなるだろう?
相手は腐っても財界のぬらりひょんだ、もとえ、大御所だからね。
誰か何かへ忠心を持つよな手合いへはどんな手がいいか、
君の手が届かぬところで危険な目に遭うやもしれないよなんて
善良な市民には言えなかろう脅しとか、
そのっくらいの阿漕な手管、呼吸するよに出て来るような歪んだ頭をしてようよ。



見合いがどうこうという噂を聞いたその瞬間、
時として結構面倒くさい恋情がらみの確執を憂うより先に、
そういう裏の仕立てというか、
相手と森とが水面下で各々構えるだろう駆け引きの構図まで
全貌があっさり読み取れた太宰としては。
誰がどんな大きな所帯を掛けてのお遊びをしようが知ったことじゃあないけれど、

  それのだしに あの子を使うのは許せん、と

猛烈にいきり立った時点で、
森のもう一つの、というか、真の目的にまんまと乗った格好になっており。
単なる駆け引きなら黙殺するだけだが、駒にされた人物が人物なだけに、
振り上げたこぶしはそれなりの成果なくして降ろすわけにもいかず。
何より、このまま放置すれば
あの子はあまり悪辣な方向へは頭が働かぬゆえ、
中也を見て育ったことが仇になってる“社畜”根性を利用され、
まんまと釣り出された挙句、
どうせなら戦場にて没したかろうに 訳の判らぬ囚人となり犬死させられるやもしれぬ。
そんな無念だけは阻止せねばとの一念発起、
時間もなかったのと、もしかせずとも実は大変混乱していたがための斜めな発想から、
のちに太宰自身も 何であんな策を…と困惑したよな
でもでも意外が過ぎて、揚げ足取る気満々だったはずの首領様の方も方で、
嘘はついてない仕立てへ噛みつきようがなかったらしい超ウルトラな仕儀へと運び。
直接の虫を遠ざけたは重畳としたその上で、

  貴方の思惑通り、自分の手は全く汚さずに片付いた厄介ごとだ。
  勝手に狼狽え、まんまと加担してしまい、
  ほぼ実行犯状態だった私を嘲笑いたきゃ笑えばいい。だが、

これは中也へも告げたこと。
他の案件で情報ほしやで接触した際に、
ついつい高飛車な態度で適当にあしらったがために、
頭を煮えさせてある海外マフィアの駐留組織の幾つかへ、
とどめに “なにせ私は森さんの犬ですから”なんていう大嘘情報ぶっこんで。

  生意気な小僧め、目にもの見せてくれようぞと
  オツム沸騰した愚連隊連中に 思い切りの火ィ点けた挙句、
  白昼堂々、ド派手なゲリラ戦よろしく、
  空から海から、本拠ビルへ次々突入させたっていいんですよ、と。

口から出まかせの空言や虚言じゃあない
実際に執行できるという彼のそら恐ろしい才を知っておればこそ。
それを育てた身としては、成長ぶりがこそばゆいような、
いやいや本気で用心せねばと、
天下のポートマフィアの首魁が本気で青くなりかけた伝言が戻って来た、
ポートサイドホテル襲撃騒動の〆めだったそうな。



     ◇◇


裏社会という闇だまりから光の輪の中へ抜け出した
とある少女の異能、夜叉白雪を起動するスイッチではないが。
男の頼もしい手のひらの中、
手慣れた所作にて二つ折りのガラケーがパチンと閉じられたと同時。
リビングのフローリングの上へふわりと光が満ち、
その中に立っていた人物が静かに息をついて目を上げる。
思えばそれは、数日前にも展開された奇跡の模様にさも似ており。

 「………っ。」

それも異能の力の余波か、
黒い長外套の裳裾がふわり膨らみ、風もないのにたわんでいたものが、
ゆっくりとその痩躯の側線に添うて静まって。
ほんのついさっきまで向かい合ってた少女より少しほど背丈のある
その身や表情を縁どる線も、細身じゃああるが やや強靱なそれに塗り替わった存在が、
永の眠りから覚めたかのよに、
幾度かの瞬きの後、射干玉のような双眸でこちらを見やる。
彼もまたその手に携帯端末を持っており、
つい先程まで、そこに秘蔵の画像を呼び出していたはずだ。

  こちらの世界と同じことをしていたのなら

港近くのホテルにて勃発した大騒ぎの、すぐ翌日の昼下がり。
無事に本来の世界へと戻ってきた愛しい子へ、
感極まったか言葉が出ずの その代わり、

 「…、芥川くん。」
 「…っ。」

まずはと歩を進め、そのまま腕を開いて相手を捕まえ、
思う存分抱きすくめても、誰に文句を言われようか。

  だって、一番平然としてつつ、
  実は一番ひやひやしてもいたらしい参謀長殿だったのだから。

そんなこちらの心持ち、
巻き込む格好で協力させた面々へも ちらとも零しちゃあいなかったけれど。
らしくはない突貫な方策へ閉口しつつ、
ああそれほど、こうまで取り乱すほど、
浮足立っている此奴なのだなと、中也辺りに気づかれてしまったかも知れない。
まま、たまには いい気にさせてもいいかもなぁなんて、
自分への言い分けのように内心にて憎まれ口を零してから。
数日ぶりの愛し子の実体ならではな感触や温みを堪能すると、

 「おかえり。」
 「只今戻りました。」

まずは無難な挨拶を交わしてから、
こそりと囁いたのが、

 「…怒っているのだろうね。」

自分が黒獣の姫へ何が起きているものかを語ったように、
向こうの自分から概要は聞いたのだろうが、
どうにもならぬ遠隔地へ送られてから言われてもという次第には違いない。
ちょいと掴みどころのない、取りようによっちゃあ傲慢な男だということへ
師匠なのだからと昔と変わらぬ空気感をもて恭順している彼なれど。
作戦中ならいざ知らず、普段からそんな態度はしなくてもと言っているだけに、

 「何なら殴っていいよ?」

手触りのいいふわっふわな黒髪へ口許うずめ、
もしょりとそんなことを言い立てたところ、

 「自分の手が痛むだけなので遠慮します。」

鷹揚なお返事が帰って来。
それへ冷たいなぁと言い返しつつ、
されどぎゅうと抱きすくめた腕はちいとも緩まない。
今の今まで此処にいた“彼女”はあくまでも別人だったので
こんなことが出来ようはずもなく、する気もなく。

 「ああ、本当によかったよぉ。」
 「…太宰さん。//////」

自分の身のうちへこのままねじ込んで取り込みたいと言わんばかりの
ぎゅうぎゅうという師匠からの抱擁へ。
日頃、どれほどの窮地にあろうと動揺などせず、
底知れぬ落ち着きと威容を宿す人という認識があるだけに。
珍しいくらいの感情の吐露にこそ困惑したか、
芥川もまた滅多にないほど真っ赤になって狼狽える。
そこへと畳みかけられたのが、

 「…すまなかったね。」

幾ら信頼関係があったとて、
向こうで待ち受けている“もう一人の太宰”がどういう段取りかを話すだろうと判っていたとはいえ、
前もって何も言わなかったのは、非情なこと この上なしな所業だったろうことも重々承知。
余計な怖い思いをさせたくなかったからだ、と
ここですぱり言い切ることが出来れば少しは様になったやもしれぬが、
身が震えそうなこの安堵の中、そのような紛いことなぞ到底口に出来るもんじゃあない。
この状態が示すよに、実をいやぁ、
冗談抜きに混乱しまくっていたがための突発的ご乱心な所業だったから笑えない。
何なら…彼を嘘の指令で誘い出し、
地方を意味なく徘徊させてその身柄をどのくらいか隠してしまうとか。
勿論、あの古だぬきどもはそんな時間稼ぎぐらい何するものぞの暇人らなのだろうから、
その隙に まずはそんな無理無体を言ってきた
裏社会の実態も伝聞でしか知らないのだろうお偉いさんには、
本当にご令嬢を誘拐して差し上げ、心底 怖い思いをしていただくとか。
こっそりマフィアと付き合いのあるような総合商社だ、
その取り引きや行状に、問題の1つや2つや50ほどあろうから、
それらを一気に噴出させて取材攻勢掛けさせて、
モラルがどうのこうのという批判の的にしてやって
娘の見合いどころじゃあないほど掻き回してやるとか。
ついでにマフィアの首魁殿にも、
せいぜい愛想笑いを貼りつけたままの顔で
長時間耐久級のノリにて、素人相手に苦情の窓口となって弁解に終始してもらうとか、etc.
他にもやりようは幾らだってあったろに。

 『何が “一目惚れしましたvv”なのだよ。
  何が あのお人と一緒になれないなら、わたくし、お部屋から出ません、だ。』

 『…太宰さん、どこからそれ訊いて来たんですよ。』

コトがあの青年に関しての情報へ、
市場の動向やら世界情勢やら
数多ある犯罪組織の近日の盛衰なんかより過敏なお人らしいというの、
薄々感じちゃあいたれども。
その実際をまざまざと見せつけられた今回だったと、
ついのこととて虎の子くんが乾いた苦笑を洩らしたそうで。
それは才長けての聡明明晰なお人にしては意外なような、
だがだが、ある意味 とても人間臭い一面が覗けて安心と言えるような。
そこまで達観するのはまだ早かろう仲間うち、
良くも悪くも事情が通じている限られた顔ぶれへ、
やや強引に協力を請い、既に見切り発車していた状態で明かされたのが先の策。

 世間を舐めくさった小娘の言いよう、
 聞いてやろうという親ばかの執念は病的に執拗だという話だから。
 適当な小細工でその場しのぎをするだけじゃあダメだ、
 その人では結ばれぬと根底から諦めてもらわにゃあ…。

本人はともかく親御や森さんが、彼らの価値判断の下、
且つ、周辺へ知られまくりとなった上でご破算にするしかないねぇと
これは絶対に“無理だ”と思うよな段取りにしなきゃあ、と。
ゆらゆら動揺しまくっていた頭が辿り着いた先が、
手配書は嘘っぱち、実際の本人は全くの別人なのですよという、
それだって随分と無茶振りな策であり。

  ただ、
  このあまりに滑稽で愚かな策に一つだけ強みがあるとすれば。
  少女の“芥川”が実在すると、
  ポートマフィアの首魁は知っているという点で。

先の騒動にて、そんな摩訶不思議な世界があるということと、
そこへ跳躍できる異能が発動した結果たる
奇天烈な事態が起きたのだという報告が 鴎外氏へも為されており。
そんな騒動に翻弄された挙句に異世界から招聘されたという
こちらの“芥川”と同位の少女とは じかに逢ってもいる首領であり。
リアリストの鴎外殿、そんな事実をそれは面白いと認可してしまっている以上、
そんなとんでもない“事実”を共有している中也や太宰やらを相手に
白々しくも惚けられはしない立場となってしまってもいる。
権勢者としての立場を使って、
そんなことあったけ?なぞと知らぬ存ぜぬで通してもいいのかも知れないが、
そうともなれば…頭を使わずの力技で切り抜けると?なんて
鼻で嗤う誰かさんの忌々しい顔が浮かぶので。
それこそ結果論じゃああるものの、
のちのちもあの“羅生門”という強力な異能を手駒として保持したくば、
此処は鷹揚に構え、
太宰のとっぴんしゃんな策に乗っかってやるが最適解という結論へ落ち着いたらしく。

 「無事だったかい?」

彼が飛ばされた並行世界は、
一種の鏡面関係と言ってもいいほど、事象の流れもほぼ同じならしいが、
ところどころが微妙に違うとも聞いている。
自身はこの異能のせいでまずは行けなかろう世界の話ゆえ、
泰然と構えつつも実は祈るような心持ちでいた彼であり。

 “もう失うのはまっぴらだもの。”

だというのに、なんてまあ危険な賭けに手を出したものだと、
総てに鳬がついた今になってそう思う。
異能というのはいまだに解析が追い着いてはいないもの、
精神的な代物か、はたまた新人類たる人種の脳組織が齎す奇跡かも
割り出されちゃあいない事象であり。
そんな中でも特段に奇異なそれだろう“時空跳躍”だなんて荒技、
幾ら身近な顔ぶれが実体験しまくっていることとはいえ、
どう働くかも未知数なら、
その異能そのものじゃあなくコピーした発動によって飛ばしたなんて前例もないこと。
100%じゃあない発動でどう作用するかも やってみなけりゃ判らないという
超を幾つ付けても足りぬほどの危なっかしい賭けであり。
もしかして途轍もない空間へ送り出されたかもしれない仕儀だったのに、
それでもぶっつけ本番やってみた太宰だったのは、
様々に錯綜した状況に押し流される格好で
大切な人がどこかへ連れ去られるという予兆に居ても立ってもいられなかったせいであり。
そこまでの動揺に襲われ、大きに混乱したその根拠はというと、

 “私は、あの森さんが恐ろしいのだ、恐らくは。”

時間がなかったこともあったにはあったが、それよりも。
この世で最も信じてはならぬ存在の懐中にいるキミなのだということ、
最も冷え冷えと実感した瞬間でもあったのだ。
かつて、自分が組織から出奔した折の事由がそうであったように、
あの首魁殿は人を人と思わぬ合理的な裁断を予断なく振るう最適解の申し子であり、
例えば、ああまで忠心誓っているよな中也でさえ、ただの駒扱いをし、
私がおらずとも“汚辱”を使わせかねない構えでいる。
もしかして敦くんとの親しみも、
その間柄をどこかで使うつもりで黙認しているのじゃあと思えるほどに
それは強かな組織の長であり。
自身の異能であるエリスをのみ頼りとしている、
あの底の見えない人外な鬼性に、
まるで自分の選択でそうと進んだかのように操られたキミを、
巧妙にも掻っ攫われるのじゃあないかと、心から恐れてしまったこたびであって。

 “そんな最適解の鬼が、まだまだ恐ろしいと思えるひよっこなのだよ。”

ああ落ち着くと、自身の懐へすっぽり収まっている黒獣の青年に
いつまでも抱き枕扱いで腕の中へと掻い込んだままでおれば、

 「その端末は…。」
 「ん? ああ。」

そんな短い訊きようで、だが、太宰にもあっさりと通じた。
恐らくは向こうでも同じやり取りをした彼らなのだろう。
見下ろせばちょうど持ち上げた薄っぺらいツールが視野に収まる。
彼もまた、スマホを手にしたままでいて、

 『やつがれがこちらへ現れたことになるあの瞬間、
  貴方はそれは心配そうな顔でいた。』

あのややこしい異能が、
異能者本人の意思はもとより、太宰の異能無効化でもどもならず、
異物を押し出そうとする空間のホメオスタシスに弾き返されるのを待つしかなくって。
一応は“三日”と判っちゃあいるが、どのタイミングでその刻限が来るかは不明。
何も全員で見守っててもしょうがない、
戻って来るのは私の愛しいあの子ゆえ、此処は私一人に任せておくれなと、
彼女が現れた場所、太宰の隠れ家であるセーフハウスにて、その時が来るのを待ち構えていたのだが。
そんな間の暇つぶし、
そちらの太宰さんてどんな人?と話を振れば、
携帯端末に撮りだめしていたらしい写真を幾つか見せてくれてから、
ふと思い出したよに彼女が訊いたのが、

 『同位のやつがれたちが無事に入れ替われたのだ、
  不安定な材料だらけの仕儀、一応は成功したと喜べばいいのに、
  何かしら案じるような顔のままでおられたが。
  あれは一体何を心配していたのですか?』

 『ああ、あれかい?』

何の説明もなく異世界へ飛ばされたと気づき、
何が起きたか察したそのまま、血相変えて逃げ出した彼女さんだったのは、
もしかして同性同士だということへ手詰まりを感じてしまわれた姉様だったのではなんて。
羅生門という残虐な異能を冷酷に操るお嬢さんにしては
なかなかに感傷的なことを案じたらしい彼女だったのだが、
それに関しては ご当人もとんでもないないと弁解したし、

 『そんな単純なタマじぇねぇよ、あいつは。』

一応の事情説明をされ、
翌日の大騒ぎへの段取りの周知もなされての待機中、
そんな思惑をこぼしたの、同坐していて聞いてしまった中也としては、
そこのフォローをついついしてやりたくなったらしく。
……勿論のこと、あくまでも芥川嬢のためにだが。
自分の愛車にての時間つぶしの最中に、ふとその話を蒸し返し、

 『同性同士じゃあ叶わねぇことって言ったら夫婦になることくれぇだろ?』

いや待て、イマドキならそれも可能だ、じゃあ子育てかな?と、
そういう方面へはリアリストかと思いきや、豊かな想像力を働かせてくれた挙句に、

 『手前が欲しいと望むなら、彼奴、自分で孕んで生んじまうかも知れねぇぞ?』
 『…それは。』

ああそっか、そっちの太宰は女だったな。
ならもっと話は早い、
梶井あたりに手前の細胞か何かから受精できよう何とか細胞とか合成させるかもしれねぇ、と。
微妙に科学、微妙に夢ものがたりっぽい、とんでもないこと言ってくれたそうで。

 『まったくよぉ、こんな面倒くさい策を練るなんてな。』

微妙に任務じゃあない段取りへ付き合わされた格好で、
下手を打てば首領への反逆罪に問われるやもしれないのに、
そこは自分の裁量で何とかするから案じるなと笑ってくれた頼もしい上司様。
あくまでも太宰への不平という格好で不平をこぼしての曰く、

 『何も言い置かねぇで勝手をするなんて、
  考えようによっちゃあ、手前を置いてったあの時と同じことじゃねぇかよな。』

酷いことをしやがると、
だがまあ、そうではなかったからこそ、そんな手酷い例えを口にし、

 『頭が良すぎる奴はこれだから面倒くさい。
  どれほど取り乱したのか、選りにも選って時空跳躍なんてな方法で匿うとはな。』

実働任務が多い中也としては、突飛ではあるが成功率も怪しい、
とてもじゃあないがあの智将が思いついた策とは思えぬという
悪手なところもようよう判るようで。
そうまで慌てふためいた末のこと、
それと、

 “後々に芥川には非が向かぬよう、
  自分が取り乱した末のご乱行…としたかったのかも知れねぇな。”

ふふと楽しいこと噛みしめるよに笑ってから、

 『首領の懐中に置いとくのが心配ならならで、何なら掻っ攫って逃げればいい。』

あの時の汚名返上ってもんで、
探偵社の人間だから無理とは言わせねぇ。
今でも裏社会へのパイプを微妙に残してるよな奴なのだから、
手前のことも匿うばかりじゃなくの身の振り方とか考えてやれっだろうによと。
それは優しくも可愛いことを並べて、懸命に励ましてくれた兄様で。

 『………。』

そんな中也と違い、太宰の方はどんな言いようをするものかと思っておれば、

 『だってキミはあくまでもお客人だ。』

伸びやかな声を甘く低めて、
私の芥川くんは3日ほどお出掛けしちゃったわけだものね、と。
携帯を開いて呼び出していた写真を見下ろした太宰は、

 『キミの太宰さんが、私ではなく探偵社の頼もしいお姉さんなように、
  私の芥川くんは、キミではない この彼だからね。』

 『あ……。』

ふっと微笑ったそのお顔が、何とも言えない表情を浮かべていて。
年頃に見合った精悍さや頼もしさも添わせた端正な風貌へ
寂しげとも映るそれ、淑とした愁いを仄かに刷いたよな、
奥深い感情を押し込めた繊細微妙なお顔をしていたものだから。
そのまま発動したらしい異能の引き戻しだろう、青い光に飲まれていった彼女が、
どんな心持ちになったかは もはや判らぬが、

 『……どうかお達者で。』

やはり甘やかに笑い返してくれたのが印象的で…。
そしてそんなやりとりは、

 「…女性が相手だから、あのような言いようをなされたのでしょうか。」
 「おや、心外だな。」

というか、もしかして向こうの私と写真を観つつの何か会話をしていたようだねと、
ちょいと白々しい言いようをして。
久方ぶりの再会果たした愛しい青年の玲瓏なお顔を見下ろしつつ、
さてどう甘やかそうかなんて、
やっとこぶりの安寧にどっぷり浸る所存の、知恵者なお兄さんだったそうでございます。





     〜 Fine 〜    18.09.05.〜09.22.

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 *何か最後まで理屈ごねごねな話になっちゃいましたね。
  芥川くんが悪くすれば人身御供にされるとあって、
  太宰さんがどんだけ取り乱したのかを書いてみたら、
  此処まで壊れかかったというか…。

 *ややこしいお話はちょっと大変だったので、
  次はもうちょっとライトなお話書きたいです。
  ウチの敦くんは大食い王なので、メガ盛りメニューへ挑戦とかしてほしいvv
  超再生へのエネルギーが要るので、
  食べなきゃ食べないでいられるけれど、
  食べるとなると何杯ではなくキロ単位でもりもり制覇しちゃうと頼もしいvv
  ギャル曽根さんみたいにそれは綺麗に食べちゃうの。
  カードキャ〇ター桜ちゃんに出て来る雪兎さん風かな?

  「銀杏は茶封筒などの適当な封筒に入れ、
   500Wのレンジで40〜50秒チン。数個が破裂すればOKです。」

  「とはいえ、何十個も一度に食うなよ?腹壊すぞ?」

  い、色気のないお話になりそだなぁ。